大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成元年(行ウ)33号 判決 1994年4月20日

兵庫県尼崎市東難波町五丁目一七番二三号

原告

株式会社大産建設

右代表者代表取締役

高鍋萬里子

右訴訟代理人弁護士

木原邦夫

木原康子

三野久光

右訴訟復代理人弁護士

相川嘉良

右訴訟復代理人弁護士

和田好史

兵庫県尼崎市西難波町一丁目八番一号

被告

尼崎税務署長 林貞夫

右指定代理人

本多重夫

金政真人

奥本忍

稲岡勇

田頭啓介

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が昭和五七年九月一〇日付けでした、原告の昭和五三年七月一日から同五四年六月三〇日までの事業年度分の法人税更正処分のうち所得金額二四〇万七五一三円を、昭和五四年七月一日から同五五年六月三〇日までの事業年度分の法人税更正処分のうち所得金額七〇五万六三五〇円を、昭和五五年七月一日から同五六年六月三〇日までの事業年度分の法人税更正処分のうち所得金額一三七四万七五〇〇円をそれぞれ超える分、及び右各事業年度分の各重加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

二  被告が昭和五七年九月一〇日付けでした、原告の昭和五三年一月一日から同五六年一一月三〇日までの源泉徴収にかかる所得税の納税告知のうち三二一〇万三四一五円を超える分、及び不納付加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告がした法人税の更正処分、重加算税の賦課決定処分につき、その基礎となった重機修理費、簿外リベート及び完成工事高の算定、並びに源泉徴収にかかる所得税の納税告知及び不納付加算税の賦課決定につき基礎となった給与所得の源泉徴収税額表等の適用、食事の支給による経済的利益の算定につき違法があるとして、原告が被告のした更正処分等の取消しを求めた事案である。

一  本件処分の存在等(当事者間に争いがない。)

1  原告は、土木建築工事業を営むいわゆる同族会社であって、白色申告者である。

2  原告は、昭和五三年七月一日から同五四年六月三〇日までの事業年度、昭和五四年七月一日から同五五年六月三〇日までの事業年度及び昭和五五年七月一日から同五六年六月三〇日までの事業年度(以下、それぞれの事業年度を順に「昭和五四年六月期」、「昭和五五年六月期」、「昭和五六年六月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、別表1ないし3の「確定申告」欄記載のとおり、確定申告をした。

3  被告は、原告の本件各事業年度の法人税の確定申告に対し、昭和五七年九月一〇日付けで、別表1ないし3の「更正及び賦課決定」欄記載のとおり、法人税の更正及び重加算税の賦課決定をした。

これに対し、原告は、右各処分について昭和五七年九月二二日に異議を申し立てたが、三か月を経過しても異議決定がなかったため、国税通則法七五条五項の規定により、昭和五八年二月二二日に国税不服審判所長に対して審査請求をした。

4  被告は、昭和五三年一月から同五六年一一月までの源泉所得税について、同五七年九月一〇日付けで、別表4の「納税告知及び賦課決定」欄、別表5の各「原処分の額」欄記載のとおり、納税告知及び不納付加算税の賦課決定をした。

これに対し、原告は、右各処分について昭和五七年九月二二日に異議を申し立てたが、三か月を経過しても異議決定がなかったため、国税通則法七五条五項の規定により、同五八年二月二二日に国税不服審判所長に対して審査請求をした。

5  国税不服審判所長は、被告がした昭和五七年九月一〇日付けの更正等の処分について併せて審理をし、平成元年六月二六日付けで法人税の各更正及び重加算税の各賦課決定に対する審査請求を棄却する裁決をした。

また、国税不服審判所長は、被告がした昭和五七年九月一〇日付けの納税告知等の処分について、平成元年六月二六日付けで源泉徴収にかかる所得税の納税告知及び不納付加算税の賦課決定の一部を別表5の「裁決による取消額」欄記載のとおり、取り消す旨の裁決をした。

二  本件各更正処分の適法性に関する被告の主張

原告の本件係争各事業年度の所得金額は、別表6記載のとおり、昭和五四年六月期は一八〇一万一八〇四円、同五五年六月期は三三一四万一〇三〇円、同五六年六月期は一億五一五九万六三六二円であり、本件各更正処分はいずれも適法である。これを詳述すると、次のとおりである。

1  法人税更正処分の適法性

(一) 労務費について

(1) 架空計上分

原告は、本件係争各年度において、架空従業員名を使用し、これらに対する架空給与として別表11の「架空計上分」欄記載の額につき労務費として計上していたが、右金額は支払った事実がない架空のものであるから、原告の損金の額に算入することはできず、原告の所得金額に加算した。

(2) 財形貯蓄分

原告は、従業員名義で財形貯蓄積立預金をし、本件係争各年度の期末において、別表11の「財形貯蓄分」欄記載のとおり、右積立金相当額六〇万円を一括して労務費として計上していたが、右金額は実際には原告に帰属する預金であって原告の資産に計上すべきものと認められるから、原告の損金の額に算入することはできず、原告の所得金額に加算した。

(3) オペレーター会費分

原告は、昭和五四年六月期及び同五五年六月期において、別表11の「OR会費分」欄記載の額につきオペレーター会費として一括して労務費に計上していたが、右オペレーター会費相当額は架空のものであると認められるから、損金の額に算入できず、原告の所得金額に加算した。

(4) 期末未払賞与分

原告は、昭和五六年六月期において、七七一万六〇〇〇円を期末未払賞与として労務費に計上していたが、実際に翌期に支払われた金額は、五七一万六〇〇〇円であり、右差額二〇〇万円は架空計上であるから、これを原告の損金の額に算入することはできず、原告の所得金額に加算した。

(5) 期末未払労務費分

原告は、昭和五六年六月期において、一三六五万三七一〇円を期末未払給与として労務費に計上していたが、実際に翌期に支払われた金額は、一一五六万三七一〇円であり、別表11の「期末未払労務費」欄記載の右差額二〇〇万円は架空計上であるから、これを原告の所得金額に加算した。

(6) 仮払い扱いによるもの

原告は、昭和五六年六月期において、九四五万〇四三〇円を小切手支払いの形で労務費として計上していたが、右金額は実際には労務費として支払われていないもので架空計上であるから、これを原告の所得金額に加算した。

(7) 過大計上分

原告は、本件係争各年度において、別表11の「過大計上分」欄記載の額につき誤って労務費として過大に計上していたので、これを原告の所得金額に加算した。

(8) 源泉所得税相当減算分

原告は、本件係争各年度において、原告の従業員の給与等の源泉所得税の増額分につき全部負担していたから、別表11の「源泉所得税相当減算分」欄記載の額につき、原告の所得金額から減算した。

(二) 外注工事費について

原告は、昭和五六年六月期において、当期の外注工事費として六一〇万円を計上していたが、右外注工事費は架空のものであるから、これを原告の所得金額に加算した。

(三) 重機修理費について

(1) 繰上計上分

原告は、昭和五六年六月期において、別表7の各「繰上計上分」欄記載のとおり、翌期の重機修理費を当期の重機修理費として繰上計上していたので、これらを原告の所得金額に加算した。

(2) 架空計上分

原告は、本件係争各年度において、別表7の各「架空計上分」欄記載のとおり、個々の取引にかかる請求金額とそれに対する支払金額との差額につき重機修理費未払金として費用に計上していたが、右差額相当額は、重機修理費の値引きであって支払いを要しないものと認められ、原告はそれを知りながら架空計上したのであるから、右金額を損金に算入せず、原告の所得金額に加算した。

ヨコハマ建機タイヤ販売株式会社に対する二三一万円の重機修理費が、昭和五四年六月期において計上漏れであると認められたので、右金額を原告の所得金額から減算(重加算税対象金額から控除)した。

(3) 計上誤り分

原告は、昭和五四年六月期において、別表7の各「計上誤り分」欄記載のとおり、重機修理費を計上していたが、右金額は当期の前の期の費用として計上すべきものであるから、右金額を原告の所得金額に加算した。

(四) 調査研究費について

原告は、昭和五六年六月において、調査研究費として三〇〇万円を計上していたが、右調査研究費は架空のものであるから、これを原告の所得金額に加算した。

(五) 重機賃借料

原告は、本件係争各年度において、別表6の「重機賃借料」欄記載のとおり、架空の重機賃借料を計上していたので、右金額を原告の所得金額に加算又は減算した。

(六) 減価償却費

原告は、昭和五六年六月期において、減価償却費として二八四万一三〇〇円を架空計上していたので、右金額を原告の所得金額に加算した。

(七) 受取利息

本件係争各年度において、別表6の各「受取利息」欄記載のとおり、原告の受取利息が計上漏れとなっていたので、右利息相当額を原告の所得金額に加算した。

(八) 固定資産売却益

本件係争各年度において、別表12記載のとおり、原告の固定資産の売却益が計上漏れないし過剰に計上されていたので、右金額を原告の所得金額に加算又は減算した。

(九) 雑収入

昭和五五年六月期及び同五六年六月期において、別表10記載のとおり原告の雑収入につき計上漏れがあったので、右金額を原告の所得額に加算した。

(一〇) 損金計上役員賞与

原告は、本件係争各年度において、別表6の「損金計上役員賞与」欄記載のとおり役員に賞与として支給した額の一部を経費として計上していたが、右金額は法人税法三五条一項の規定により損金の額に算入されないものであるから、これを原告の所得金額に加算した。

(一一) 完成工事高

原告は、本件係争年度において、別表9記載のとおり、原告の完成工事売上について、事業年度の請求締切日(六月一一日)から期末日(同月三〇日)までの完成工事出来高に相当する金額(以下「帳端収入」という。)のうち、前期に計上すべき金額を次の期に繰延べ、又は当期の帳端収入を翌期の収益として繰り延べていたので、右金額を原告の所得金額から加算又は減算した。

(一二) 使途不明金

原告は、本件係争各年度において、別表8の「同上のうち使途不明金に相当するもの」欄記載の額を簿外リベートとして計上しているが、右記載額は使途不明金として法人税法二二条三項の規定にいう損金の額には算入されないものであるから、右金額の損金算入を否認するとともに、同額を原告の所得金額に加算した。

(一三) 役員報酬

原告は、昭和五六年六月期において、原告の専務取締役山下正一に対して貸付金を有しており、右貸付にかかる利息相当額一三三万一九七一円は、役員報酬として損金の額に算入されるものであるから、右金額を原告の所得金額から減算した。

(一四) 支払利息

昭和五六年六月期において、融通手形取引にかかる原告の支払利息六〇万円が計上漏れとなっていたので、これを原告の所得金額から減算した。

(一五) 未納事業税

昭和五五年六月期及び同五六年六月期において、原告の確定申告記載の所得金額に、被告が行った法人税調査による原告の同期の増加所得金額を加算し、所定の税率を乗じて未納事業税を算定し、右により算定した別表6の「未納事業税」欄記載の金額を当期の原告の所得金額から減算した。

(一六) 延納分利子税等

(1) 原告の昭和五四年六月期の法人税にかかる延納分利子税八〇〇円は、損金算入が認められるところ、右金額が計上漏れとなっていたので、右金額を原告の所得金額から減算した。

(2) 原告は、昭和五四年六月期の法人県民税の本税につき五五円を過剰に損金不算入として所得金額に加算していたので、右金額を原告の所得金額から減算した。

(一七) 経費等

原告は、昭和五四年六月期において四九二四万円、同五五年六月期において六一六八万円、同五六年六月期において五二五四万円の諸経費を支払った旨主張するが、右主張の経費の存在を認めることはできないから、これを損金の額に算入することはできない。

2  重加算税賦課決定処分の適法性に関する被告の主張

右1記載の事実のうち、課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装したことが明らかな事実については、昭和五四年六月期及び同五六年六月期については国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のもの。)六八条一項、同五五年六月期については国税通則法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。)六八条二項の規定にそれぞれ該当するから、別表1ないし3及び6記載のとおり重加算税を賦課した処分は適法である。

3  源泉徴収に係る所得税の告知の適法性に関する被告の主張

(一) 給与所得の源泉徴収表(月額表)及び賞与に対する源泉徴収額の算出率の表の適用について

従業員に支給した給与賞与にかかる給与所得の源泉徴収額を計算するに当たり、その支払者に対して扶養控除等申告書を提出しなかった従業員にかかる給与賞与については、所得税法一八五条及び一八六条の各一項二号の規定により、別表第四の乙欄及び同別表第六の乙欄(以下、両表の乙欄を併せて「月額表等の乙欄」という。)を適用すべきものとされている。

被告は、右扶養控除等申告書を提出しなかった原告の従業員すべてに対して、月額表等の乙欄を適用して源泉徴収額を算出し、納税の告知処分をしたのであるから、右月額表等の乙欄の適用は適法である。

(二) 食事の支給による経済的利益について

原告は、各工事現場などの給食施設において、材料を購入調理して従業員に給食するとともに、右源泉徴収をしなかった者に対し、その食事代に相当する金額として一日当たり一五〇〇円の食事手当てを給与に含め、その同額を給与から天引きしていた。

しかし、右食事手当ては従業員から実際に徴収したものではなく、食事自体を無償で支給することにより、その食事の価格に相当する金額の経済的利益を従業員に供与したものと認められ、所得税基本通達三六-三八の二(食事の支給による経済的利益はないものとする場合)を本件において適用する余地はなく、原告が同通達により控除した食事手当て二五〇〇円を給与に含めて源泉徴収税額を算出した処分は適法である。

(三) したがって、右のとおり源泉徴収税額を算出し、別表5の各「原処分の額」欄記載のとおり納税の告知をした被告の処分は適法である。

三  原告の主張

1  重機修理費について

原告は、キャタピラー三菱株式会社(以下「キャタピラー三菱」という。)、兵庫小松株式会社(以下「兵庫小松」という。)、株式会社小松製作所(以下「小松製作所」という。)に対する本件各事業年度における未払金を次の計算式により算定したものであり、架空の重機修理費を計上したものではない。

期末未払重機修理費=期首未払重機修理費+期中重機修理費(請求額)-期中決済額

被告の主張する金額は、キャタピラー三菱ら関係会社より修理代金の値引きを受けるべきものが大部分であり、右関係会社からの正式な金額決定の通知があって初めて正式な値引となりうるものであるから、その通知がない限り、未払金処理は正当である。

また、相手方会社の損金処理がなされたかどうかは原告としては判断しえないところである。

2  完成工事高について

原告は、本件各事業年度の最終月(六月)において各売上先に対して売上金額(完成工事高)の請求をした後、当該月の請求締切日である一〇日の翌月から当該事業年度の末日までの期間の工事出来高の算出(いわゆる帳端収入の計算方法)につき、六月の請求締切日の翌日以後の工事出来高は翌七月分の売上請求に含まれるから、当該七月分の売上請求のうち六月末日までの稼働日数等により一応の工事出来高を推計し、これに各工事現場ごとの工事進歩状況などを勘案調整した上で実際の工事出来高に近い金額を算出したものであり、その金額に誤りはなく売上圧縮はない。

3  簿外リベート(使途不明金)について

被告は、簿外経費のうち、岸本建設株式会社(以下「岸本建設」という。)、壺山建設株式会社(以下「壺山建設」という。)及び株式会社宮本組(以下「宮本組」という。)に対して支払った簿外リベートは認めながら、昭和五六年六月期の岸本建設に対する七〇〇万円以外の部分を支払先・支払目的が明らかでないから直ちに使途不明金としているのは、法令の解釈を誤ったものである。

4  給与所得の源泉徴収表(月額表)及び賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表の適用について

被告は、給与所得にかかる源泉所得税の額を計算するに当たり、所得税法一九四条に規定する給与所得者の扶養控除等申告書を提出しなかった原告の従業員に対し、所得税法一八五条及び一八六条の各一項二号の規定により別表第四の乙欄及び別表第六の乙欄(月額表等の乙欄)を適用した。

しかし、月額表等の乙欄の適用を受ける者は二以上の給与(賞与を含む)の支払者からその支払を受ける者であると解すべきところ、原告の従業員は各工事現場において寄宿生活をしながら作業に従事し(現在においても当時の従業員の多くが各工事現場に寄宿して作業に従事している。)、原告のみから給与賞与の支払を受ける者であるから、仮に右扶養控除等申告書を提出しなかったとしても月額表等の乙欄の適用はないというべきであり、当該従業員に対して賞与以外の給与について所得税法一八五条及び一八六条の各一項二号に規定する別表第四の甲欄及び同別表第六の甲欄(以下、両表の甲欄を併せて「月額表等の甲欄」という。)を適用すべきである。

5  食事の支給による経済的利益について

原告は、従業員に対して食事を支給していたが、その食事代に相当する金額として従業員一名当たり月額四万六五〇〇円(一日当たり一五〇〇円、一か月を三一日として算定)を限度とし原告従業員各自の給与に含めて計上し、そのうち一名当たり月額二五〇〇円を所得税基本通達三六-三八の二(昭和五九年七月二六日改正前のもの)の定めに基づいて非課税としたものであるから、原告の右計算は適正であり、かつ、従業員の労働環境なども勘案するとの妥当性は明らかである。

四  争点

1  原告のキャタピラー三菱、兵庫小松、小松製作所に対する重機修理費について、右各社からの請求額と右各社が実際に集金した額との差額が未払金として認められるか。

2  原告が壺山建設及び宮本組に対して支払った簿外リベートを被告が使途不明金として扱ったのは適法か。

3  原告が翌期の収益として繰り延べていた完成工事高についての帳端収入を被告が原告の当期の収益として処理したことは適法か。

4  給与所得者の扶養控除等申告書を提出しなかった者の源泉徴収額を計算するに際して適用すべき算出率の表は、所得税法一八五条、一八六条の各一項一号、二号に規定する甲欄、乙欄のいずれを適用すべきであるか。

5  原告が従業員に対して支給した食事代に相当する金額のうち、一名当たり月額二五〇〇円を所得税基本通達三六-三八の二の定めに基づいて非課税とすることができるか。

第三争点に対する裁判所の判断

一  争点1について

1  被告は、重機修理費についての請求額と実際の集金額との差額は重機修理費の値引額であって、支払を要しないものであるから、右金額は損金に算入されず、原告の所得金額の加算されるべきものであると主張し、原告は、右差額は実際に値引の通知があるまでは、原告には値引があったかどうか分からず金額が確定していないのであるから、未払金として計上すべきものであると主張するので、以下、この点について検討する。

2  証拠によれば、次の各事実が認められる。

(一) 原告は、本件各事業年度の確定申告において未払金として、昭和五四年六月期においてキャタピラー三菱につき二五一六万三五五八円、兵庫小松につき八八〇万九〇三二円、昭和五五年六月期においてキャタピラー三菱につき三四〇七万二二八〇円、兵庫小松につき四五二万八六七一円、昭和五六年六月期においてキャタピラー三菱につき四〇二三万四八二四円、小松製作所につき二六三一万九五三六円を計上した。

(乙第四三ないし第四五号証)

(二) 右に計上されている未払金のうち、昭和五四年六月期におけるキャタピラー三菱に対する六七四万九八八七円、兵庫小松に対する四一万一八七五円、昭和五五年六月期におけるキャタピラー三菱に対するマイナス一五八万八八八四円、兵庫小松に対する二五一万六七二五円、昭和五六年六月期におけるキャタピラー三菱に対する一六七一万八九五六円、兵庫小松に対する二八六万七五八一円、小松製作所に対する一二八二万八二九六円は、いずれも重機修理費についての請求額と実際の集金額との差額と認められる。(乙第二ないし第七号証)

(三)(1) 原告とキャタピラー三菱との間の重機修理費の処理については、五〇万円以下の取引の場合、キャタピラー三菱において概算の見積書を作成して、これを原告に交付し、その後、キャタピラー三菱が実際に要した費用を勘案した請求額を記載した精算見積りを作成し、この精算見積りによりキャタピラー三菱が原告に対して重機修理費を請求し、これに基づいて原告とキャタピラー三菱との間で値決め交渉が行われ、値引き等があった後に、そこで決定した額で金額が確定していた。そして、キャタピラー三菱は右値引きを社内的に処理するために改めて請求書を作成していたが、右請求書を原告に送付することはなかった。(証人大藪実)

(2) 原告とキャタピラー三菱との間の重機修理費に関する取引において、キャタピラー三菱は、集金の都度、請求金額と集金額との差額を値引きとして処理し、重機修理費は右集金額で確定し、後に請求金額と集金額の差額について原告からキャタピラー三菱に支払われることはなかった。(乙第八号証、第一〇号証)

(3) キャタピラー三菱が精算見積りを原告に提示し、両者間で値決め交渉を行っても主張が折り合わずに保留になったものについては、後の話し合いで原告からキャタピラー三菱に支払われることもあるが、値引交渉があって額が決定したものについてはその額で確定していた。(証人大藪実)

(四) 原告と兵庫小松との間の重機修理費に関する取引において、兵庫小松は請求金額と集金金額との差額については値引きとして処理しており、その後、右差額につき原告が兵庫小松に支払うことはなかった。

(乙第一一号証)

(五) 原告の取締役部長であった西平信子(以下「西平」という。)は、重機修理費について請求を受けた額と実際に支払った額との差額は原告の専務取締役山下正一こと金基徳(以下「山下」という。)が取引先に対して値引きをさせた額であり、未払金として計上すべき性格のものではないと考えていたが、山下が西平に対して未払金として計上するよう要求したので、西平がやむなくこれに応じていた。(乙第一三号証)

3  以上の事実によれば、原告の重機修理費について、請求額と実際に支払われた額との差額については、交渉が折り合わずに特に明示的に保留となったものをのぞいては値引きとして確定し、その後に右差額が支払われることがなかったと認められる。

したがって、重機修理費について請求額と実際に支払われた額との差額については、明示的に保留となっていないものについては未払金と認めることはできず、右差額が未払金であるとする原告の主張は採用することができない。

二  争点2について

1  証拠によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、本件各事業年度において薄外リベートとして、昭和五四年六月期に壺山建設に対して八〇〇万円、同五五年六月期に宮本組に対して四〇〇万円、同五六年六月期に壺山建設に対して三四〇〇万円を計上していた。(乙第二七号証、第四三ないし第四五号証)

(二) 原告は、右薄外リベートに相当する額を実際に支出していたが、現実に支払った相手方・支払目的などは明らかでなかった。(乙第二七号証)

2  原告は、薄外リベートにつき、支払先・支払目的が明らかでないものを直ちに使途不明金とみるのは法令の解釈を誤ったものであると主張する。

法人税基本通達九-七-二〇(昭和五五年直法二-一五による通達番号変更前九-七-二三)によれば、法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその使途が明らかでないものは、損金の額に算入しないものとされている。右通達は、法人が費用として支払った金額のうち、その使途を確認することができないいわゆる使途不明金について一般的な取扱いを定めたものである。

本件において、原告が薄外リベートとして支出した金銭は右にみたように支払先・支払目的が明らかでないものである以上、その使途が明らかでないものとして右通達により使途不明金として損金に算入することはできないものである。

したがって、被告が法令の解釈を誤ったものとは認められず、この点に関する原告の主張は採用することができない。

三  争点3について

1  以下の事実は当事者間に争いがない。

(一) 原告は、各月の締切日の翌日である一一日から翌月の一〇日までの完成工事高を算出する目的で、各工事現場ごとに各日ごとの稼働時間数に単位時間当たりの工事出来高を乗じてこれを集計した一覧表(以下「本件一覧表」という。)を作成していた。

(二) 原告は、昭和五二年七月一日から同五三年六月三〇日までの事業年度(以下「昭和五三年六月期」という。)における壺山建設の山の街現場での帳端収入三二八万二二五〇円のうち二五〇万円を昭和五四年六月期の収益とし、昭和五三年六月期の事業年度の決算書には右二五〇万円を差し引いた七八万二二五〇円を計上した。

(三) 原告は、昭和五五年六月期における丸磯建設の名張現場、宮本組の北六甲現場及び壺山建設の名張現場の各帳端収入順に、二三〇五万四〇七六円、四五五万四〇〇〇円及び二八〇万二三〇六円のうち、それぞれ七六八万四六九二円、二三五万八〇〇〇円及び六四万六六八六円を昭和五六年六月期の収益とし、昭和五五年六月期の事業年度の決算書には右額を差し引いた一五三六万九三八四円、二一九万六〇〇〇円及び二一五万五六二〇円を計上した。

(四) 原告は、昭和五六年六月期における壺山建設の名張現場の帳端収入一五四三万三六二一円のうち、五二九万五六一八円を昭和五六年六月期の収益に計上しなかった。

2  原告は、本件一覧表は請求締切日との関係で七月分工事出来高のうち、六月一一日以降、当月の月末までの出来高を稼働時間数等によって一応推計したものであり、あくまで推計にすぎないものであるから、これを他の資料(取引の相手方による検収と査定見込額等)と照らし合わせて各期末の実際の工事の出来高を算出し、これをより正確なものにした上で帳端収入を計上していると主張する。

そこで検討するに、証拠(乙第二二、第二三号証)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和五三年六月期の帳端収入につき、当初、壺山建設(山の街)について「6/11~6/303,282,250 7/1~7/10 2,926,000」と本件一覧表に基づいて計算しておきながら、決算書作成時にその右側に「782,250」「5,426,000」と記載し、公表計上もそれぞれ右側の数字で計上を行っていた。

(二) 原告は、昭和五五年六月期の丸磯建設名張現場における帳端収入について、当初、「6/16~6/30 23,054,076」と本件一覧表に基づいて計算しておきながら、右側に「15,369,384」と記載し、右側の額にて公表売上を計上していた。

また、原告は、同期の宮本組北六甲現場の帳端収入について、当初、「6/16~6/30 4,554,000 55.7.11~7.15 2,196,000」と本件一覧表に基づいて計算しておきながら、「逆とすること」と書いて、実際、同期末には「2,196,000」で計上していた。

さらに、同期の壺山建設名張現場における帳端収入について、当初、「6/16~6/30 2,802,306」と本件一覧表に基づいて計算しておきながら、右側に「2,155,620」と訂正しており、実際の期末には右訂正額で計上していた。

(三) 原告は、昭和五六年六月期の壼山建設名張現場における帳端売上について、壼山建設北須磨の入金額「34,537,437」を誤って用いており、本来の帳端売上額「26,170,055」をもって計算し直した結果、売上繰延べ額は「5,295,618」となった。

3  以上の事実によれば、原告は、右三1(二)(三)(四)記載の額について帳端収入を翌期の収益として繰り延べて計上していると認められる。

したがって、原告が翌期の収益として繰り延べていた帳端収入を、被告が当期の収益として処理したのは適法である。

四  争点4について

1  以下の事実は当事者間に争いがない。

(一) 原告の従業員のうち、所得税法一九四条に規定する給与所得者の扶養控除等申告書を提出しなかった者が、昭和五三年は二三名、昭和五四年は五三名、昭和五五年は五四名、昭和五六年は六五名おり、これらのうち原告が月額表等の甲欄を適用して源泉徴収税額を計算し、源泉徴収した者が昭和五三年に四名、昭和五六年に一〇名おり、その他の者は源泉徴収をしなかった。

(二) 被告は、右扶養控除等申告書を提出しなかった従業員すべてに対して、月額表等の乙欄を適用して源泉徴収額を算出し、別表1の各「原処分の額」欄記載のとおり所得税の納税告知をした。

2  原告は、月額表等の乙欄の適用を受ける者は二以上の給与(賞与を含む)の支払者から支払を受ける者であると解すべきところ、被告が同欄を適用した原告の従業員は従たる所得を得ることのできない者であることが明らかであるから、原告が月額表等の甲欄を適用して源泉徴収額を計算し源泉徴収したことは適法であると主張するので、この点について検討する。

(一) 国内において給与等の支払を受ける居住者は、「給与所得者の扶養控除等申告書」を所轄税務署長に提出しなければならない(所得税法一九四条一項)。この申告書は、扶養控除・配偶者控除等を受けるためのものであると同時に主たる給与の支払者を決定するためのものであり、これにより源泉徴収税額表の甲欄を適用するか乙欄を適用するかの区分を決定することができ、この申告書の提出がない場合には月額表等の乙欄を適用すべきものとされているのである(同法一八五条、一八六条の各一項二号)。

(二) 原告は、所得税基本通達一九四・一九五-二が扶養親族等の控除を受けない者の申告につき連記式その他の簡易な方法を認めている趣旨からして、扶養控除等申告書の不提出のみを理由として月額表等の乙欄を適用すべきではないと主張する。

しかし、扶養控除等申告書の様式につき簡易な方法によってでも右申告書が提出されたのであれば、主たる給与の支払者を決定するという法の趣旨を満たすことは可能であるが、扶養控除等申告書を提出しない場合には主たる給与の支払者を決定することができないのであるから、月額表等の乙欄を適用せざるを得ないというべきである。

3  したがって、被告が扶養控除等申告書を提出しない原告の従業員に対して月額表等の乙欄を適用したことは適法であり、このような従業員に対しても月額表等の甲欄を適用すべきであるとする原告の主張は採用することができない。

五  争点5について

1  原告は、従業員に対して食事を支給していたが、その食事代に相当する金額として従業員一名当たり月額四万六五〇〇円(一日当たり一五〇〇円、一か月を三一日として算定)を従業員各自の給与に含め計上し、そのうち従業員一名当たり月額二五〇〇円を非課税とした。(当事者間に争いがない)

2  原告は、右食事代金相当額の一部を非課税とした扱いは所得税基本通達三六-三八の二(食事の支給による経済的利益はないものとする場合)により適法であると主張する。

しかし、同通達三六-三八の二は、使用者が従業員に対して支給した食事の価額の五〇パーセントに相当する金額以上を従業員から実際に徴収している場合の取扱いを定めたものである。

ところが、原告は、食事代に相当する金額としてあらかじめ一人一日当たり一五〇〇円を給与に含めた上、同額を給与から天引きする形をとっていたものと認められ、右食事代金に相当する額を従業員から実際に徴収しているものではないから、同通達三六-三八の二の適用は認めることができない。

3  したがって、原告が控除した従業員一名当たり月額二五〇〇円の食事手当を給与に含めて源泉徴収額を算出し、納税の告知をした被告の処分は適法であると認められる。

第四結論

よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 影浦直人 裁判官吉野孝義は、転官のため署名押印することができない。裁判長裁判官 辻忠雄)

別表1

課税の経緯

別表2

課税の経緯

別表3

課税の経緯

別表4

課税の経緯

別表5

自 昭和53年1月

至 昭和56年11月分 源泉所得税

別表6

更正処分等科目別内訳表

別表7

重機修理費の架空及び繰上計上額等

別表8

簿外リベートの支出額及び使途不明金

別表9

完成工事高の期末繰延べ等の金額

別表10

雑収入の除外金額

別表11

労務費の架空及び過大計上額等

別表12

固定資産売却益の金額

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例